起業家は自分が作るビジネスについて、社内外のステークホルダーに説明する機会が多くあります。トークだけで説明できることも重要ですが、ベンチャーカンファレンスや投資家とのミーティングにおいては、ピッチ資料と呼ばれるプレゼンテーション用の資料が活用されています。
この記事ではこれからビジネスを興そうとしている起業家、及び投資家やその他ステークホルダーから協力を得てビジネスを拡大したいと考えているスタートアップ経営者向けに、ピッチ資料の作り方と注意点について具体的に解説していきます。
- ピッチ資料とは何なのか
- ピッチ資料にはどんな種類があるのか
- ピッチ資料を作る時に気を付けるべきことは何か
- ピッチ資料に入れるべき基本の10スライドとその内容
- その他、状況に応じて資料に入れるべきコンテンツ
目次
ピッチ資料とは
前段でも書いた通り、ピッチ資料はプレゼンテーション資料の一種です。
新しいビジネスを作るスタートアップにおいては、自分たちの事業のビジネスモデルと成長ストーリーを投資家などのステークホルダーに説明するための道具になります。
ピッチ資料の目的
ピッチ資料を活用する主な目的は下記の3点になります。
- 自社のビジネスに興味を持ってもらう
- 自社のビジネスを理解してもらう
- その上で、行動してもらう
また、ピッチ資料を作る副次的なメリットとして、自社の事業を見つめ直すことでビジネスモデルや企業としての戦略がブラッシュアップされる効果があります。
まだPMF(Product Market Fit)を達成していないビジネスはもちろん、日々の仕事で忙殺されていて長期の経営戦略を明確に言語化する機会が少ない起業家にとっても、戦略を整理する良い機会になるでしょう。
ピッチ資料の種類
ピッチ資料と一言に言っても、目的に応じてピッチ資料にはいくつかの種類があります。
以下が代表的なものです。
- 営業ピッチ
- 採用ピッチ
- メディア向けピッチ
- 投資家向けピッチ
最近では採用ピッチなども注目されてきていますが、ベンチャー企業のピッチ資料と言えば、ベンチャーカンファレンスや資金調達の際に用いられる投資家向けの資料を指すことが一般的です。

この記事では主にプレシード~シリーズAまでのスタートアップ企業が、投資家にビジネスのポテンシャルを説明するためのピッチ資料について解説していきます。
ピッチ資料を作る時の心構え
ピッチ資料を作ると決めたら、まず何をすれば良いのでしょうか?
「とりあえずPowerPointを開いて・・・」とやっても、ピッチ資料を作るための構想がしっかりまとまっていないと、クオリティの高い資料は中々作れないでしょう。
ここではピッチ資料の作成に取り掛かる前に、まず知っておくべきことを紹介していきます。
まず目的を明確にする
ピッチ資料に関わらず、まず目的を明確にすることはビジネスにおける鉄則です。
- そのピッチ資料で何を達成したいのか、顧客獲得?採用?資金調達?
- 資金調達であれば、何のために、いくらの資金が必要なのか
- どんな投資家にプレゼンして、いくらの投資を引き出したいのか
といったことを明確にした上で、ピッチ資料の作成に取り掛かるようにしましょう。
また、ベンチャーカンファレンスのピッチイベントで話すのか、印刷したピッチ資料を使って投資家とミーティングするのか、と言ったことも事前に想定しておきましょう。
いきなりプレゼン資料作成ソフトを開かない
目的を明確にできても、PowerPoint(Prezi、Googleスライド、その他プレゼン資料作成ソフト)を開くのはまだ早いです。
PowerPointを使ってデザインを始める前に、まずは資料に入れる内容を考えましょう。その内容を聞けば自分のビジネスに投資したくなるか?を自問自答して、内容を固めていきます。
入れるべき内容はこの記事で紹介するので、焦らずこのまま読み進めてください。
ストーリーを語る
ピッチ資料の内容を考える時に忘れてはいけないのは、その資料でストーリーを語れるか、ということです。
そのページに書いてあることを細切れに読み上げるだけならロボットでもできます。
世の中にある問題・解決策・成長計画・それらを実現するためのチームなどについて、起業家自身がストーリーを持って語れる構成になるように気を付けましょう。
デザインも重要である
投資家に向けてビジネスの説明をする上で、ビジネスの内容自体が重要なのは言うまでもありませんが、目的を達成するためにはデザインもピッチ資料の重要な要素になります。
スタートアップが生み出すビジネスが斬新なものであれば、それは他の人にとっては理解が難しいものかもしれません。
デザインは視覚的にその理解を助け、起業家が期待する結果を得る可能性を高めてくれる武器になるでしょう。
ピッチ資料の構成
ピッチ資料の内容と構成は、ピッチを行う目的や状況、スタートアップのビジネスモデルやステージによっても大きく異なります。
それでも基本的な型は存在するので、
- ピッチ資料における基本の10スライド
- その他、必要に応じてピッチ資料に入れるべきコンテンツ
に分けて、ピッチ資料に入れるべき内容を紹介していきます。
ピッチ資料における基本の10スライド
スタートアップのビジネスの大枠を説明するための3~5分間程度のピッチであれば、下記の10スライドで基本的なことは伝えることができます。
- 表紙
- 問題
- 解決策
- トラクション
- 市場
- 競合
- 自社の強み
- ビジネスモデル
- チーム
- 資金調達の概要
それぞれのページで気を付けるべき点について、以下で説明していきます。
表紙
まずは表紙ページで何のピッチなのかを伝えます。
ピッチのタイトルと企業ロゴは必須で入れた上で、自社の事業に関連する写真などを入れることで、聞き手にどんな内容のピッチなのか、雰囲気を伝えることができるでしょう。
問題
このページでは、自分たちのビジネスが解決しようとしている問題を示します。
具体的にどんな人たちがどのような問題を抱えていて、なぜそのような問題が起こっているのかを説明しましょう。起業家自身の経験などをを踏まえて、その問題がどれだけ深刻で、解決される必要があるのかを語れることが理想です。
解決策
次に、存在している問題に対して、どのような解決策を取るのかを説明します。この解決策こそがあなたのビジネスです。
プロダクトやアプリがある場合は、実際の商品写真を貼るなどして、聞き手がソリューションを具体的にイメージできるようにしましょう。
トラクション
スタートアップ界隈以外ではあまり効かない言葉ですが、「トラクション」とは要するにビジネスの成長可能性を示す実績のことです。
例えばユーザー数増加の推移であったり、顧客が支払ってくれている月額費用であったり、契約の継続率であったり、実際にビジネスがユーザーに受け入れられており、成長が見込めることがわかる定量的なデータを提示しましょう。
市場・顧客
このスライドでは、自社のサービスまたはプロダクトが、どんな市場のどんな人たちが提供対象になるのかを説明します。
市場規模についてはTAMだけではなく、SAMやSOM、もしくはエントリー市場(=最初にどこの市場をターゲットにするか)を説明できると良いでしょう。
詳しくは「TAM・SAM・SOM?ベンチャー企業が戦う市場の定義方法」で解説しています。
競合
競合ページでは、同じ市場で戦う他の企業について説明します。
縦軸と横軸を取ったポジショニングマップを使って、競合と自社の立ち位置や特徴を明確にするのも良いアプローチになるでしょう。
たまに「競合はいません!」というプレゼンをする起業家がいますが、全く競合がいないということはあり得ないので、考え直しましょう。
例えば新しいジャンルの動画無料視聴サイトを作る場合、狭義の直接競合はいないとしても、総合動画視聴サイトのYouTubeも、Netflixも競合になりえます。
もしくは、可処分時間を奪い合うという意味ではInstagramも競合になるかもしれません。
自社の強み
競合他社にはない自社の強みを伝えましょう。英語ではUnique Selling Propositionと呼ばれるものです。
プレゼンの鉄則に従って、3つ程度でまとめるのが好ましいでしょう。競合他社と比較すると規模で劣っている場合でも、ビジネスモデルの特異性や、経営陣の特殊なスキルセットなど他社と差別化できるポイントを明記します。
3つのポイントを上手くまとめる方法は「「ポイントは3点です」をパワーポイントで綺麗にまとめる3つのパターン」で紹介しています。
ビジネスモデル
ビジネスモデルのページでは、いつ、だれから、どのような形で収益を得るのかを説明します。
サービス・情報・お金の流れが複雑な場合は、系統図を用いてビジネスモデルを説明しましょう。シンプルなビジネスモデルの場合は、顧客ごとのLTVや顧客獲得コストなどの定量的でより具体的な数値を入れるのもでしょう。
チーム
ここまでで説明したビジネスを、だれが率いて実現するのかを示します。
経営陣のプロフィールは簡単な経歴に加えて、なぜその人物がその事業をやるべきなのかがわかることが理想です。スライドに書ききれない場合でも、実際のプレゼンでは語れるようにしておきましょう。
資金調達の概要
いくらの資金を調達し、何に使う予定なのかを説明するスライドです。
必要に応じて企業価値バリュエーション及び株式の放出割合、資金調達スキーム、発行株式の種類、資金の投下期間、なども記載すると良いでしょう。
必要に応じてピッチ資料に入れるべきコンテンツ
ここまでで説明した10ページ以外にも、状況に応じて以下のようなページを加えてピッチ資料を作ります。
- エグゼクティブサマリ
- 機会
- ミッション・ビジョン
- 会社概要
- 沿革・マイルストーン
- サプライチェーン
- Go-to-Marketプラン(営業・マーケティング戦略)
- 組織図
- リスク
- プロダクトロードマップ
- 他企業との事業提携戦略
- 成長計画(エクイティ・ストーリー)
- 財務データ(PL/BS/CF)
- 資金使途の詳細
- バリュエーション算定ロジック
- まとめ
- よくある質問
さいごに
実績やリソースが十分ではないスタートアップにとって、自分たちのビジネスのポテンシャルを効率的に伝えられるピッチ資料は大きな武器となります。
ピッチ資料を作ろうと考えたら、まずは目的を明確にするところから始め、魅力的なストーリーを組み立て、それに応じて必要なスライドを作るようにしましょう。
「ICCサミット スタートアップ・カタパルト」や「B Dash Camp Pitch Arena」で優勝しているWAmazing株式会社の加藤社長への独占インタビュー記事もありますので、ピッチで勝ちたい起業家の方はぜひ読んでみてください。

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~ これまでの支援イベント(一部抜粋) ~
■ IVS Launch Pad
■ INDUSTRY CO-CREATION
■ B Dash Camp
■ Slush Aisa
■ Rising EXPO
■ AWS Global Summit
■ sprout
■ TBS Morning Pitch
■ World Economic Forum
■ ECHELON
■ FiBC
■ G20 Tourism Innovation Pitch
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