「ICCサミット スタートアップ・カタパルト」優勝、「B Dash Camp Pitch Arena」優勝、東急電鉄を始めとする複数社から総額9.3億円のシリーズB資金調達など、勢いに乗っているインバウンド系ベンチャー企業のWAmazing株式会社(以下、WAmazing)。
そんなWAmazingの大勝負プレゼンで結果を出してきた加藤社長に、スタートアップ企業のプレゼン必勝法をお伺いしました。絶対に勝つための徹底した準備、資金調達やピッチを成功させるための戦略について語っていただいています。
WAmazing株式会社
代表取締役社長CEO 加藤 史子
目次
資金調達は早めの準備が必須
次ラウンドへの準備は、資金調達が終わった直後から
― 資金調達プレゼンに向けた準備はどのくらい前から始めるのでしょうか?
資金調達だと、前ラウンドの資金調達が終わったら準備を始めます。
― おお、それは早いですね。
もちろん実際に動き始めるわけではないのですが、資本政策の振り返りを行うようにしています。
まず始めに資本政策を立てて、それに沿って資金調達を行っていくのですが、リード・フォロー投資家を決めて、投資契約を決めて、といったことをすると結構な時間がかかります。
そのため資金調達ラウンドが完了した時点で、改めて事前に立てていた資本政策の振り返りが必要だと考えていて、それを調達が終わったタイミングで実施していますね。

― 振り返りが終わった後は、どのように準備されてるのでしょうか?
振り返りをしたら、次の資金調達に向けた戦略を作ります。
資金調達モードにいつ入るのか、どういう状態であれば次の調達がうまくいくか、ピッチイベントには出るのか、といったこともこのタイミングで考えます。
そのラウンドが最後の資金調達だったら別に良いですが、次ラウンドもするのであれば、その時までにどういう状態になってたら良いかを考える必要があります。
そして、その状態になっているためには、どうやって事業を育てる必要があるかを考えて、実行していきます。
― 資金調達が終わったらしばらく資金繰りのことは考えないと言うベンチャー経営者も多いですが、終わってすぐに考えられているんですね。
資金繰りが好きなスタートアップの社長なんていないと思うので、忘れたくなる気持ちはわかります。でも、振り返りは絶対にした方が良いと思います。
考えることは大変ですが、考えないで時間が経過してしまうことで、よりマズい状態になる例も知っているので・・・。
シリーズAは市況や市場の大きさ、アプローチの筋の良さ、魅力的なチームがあれば調達できるケースが多いです。
そしてその次のシリーズBは、シリーズAで掲げた理想へのマイルストーンを実現できていたら調達できます。ただ、大抵は理想に現実が追いついておらず、コストは計画通り使っているものの、売上が足りないという状況が多い。
私の場合は、シリーズAが終わったタイミングで、事業が計画通り上手くいかないパターンも想定しておきます。計画通りにいってない場合は、どんなストーリーであればシリーズBの調達ができるか、ということを考えています。

― かなり綿密に計画されてるんですね。
私は大企業歴が長いので、どうしても「数ヵ月後にキャッシュアウトが迫っている」という状況に慣れないんですよね。
中位推計・悲観・楽観でA~Cプランまで出すようにして、いつまでに調達できない場合は、プランAを諦めてプランBに切り替えるか、なども考えるようにしています。
モードに入ると、仕事の5割以上が資金調達
ー 資金調達に向けて本格的に動くのはどのくらいのタイミングですか?
直近ラウンドの場合だと、4月に資金調達モードに入って、8月着金になりました。
ー 本格的に動いている期間は、どのくらいの時間を資金調達に割かれてるのでしょうか?
資金調達モードに入ると、ほとんど他のことはできなくなりますね。
もちろん採用や他の仕事もあるので100%ではないですが、5割以上の時間を割いているイメージです。
本当はそんなに時間を割きたいわけではないですが、仕方ないと思って集中してやっています。だらだらやっても上手くいかないので。

ピッチでのプレゼンは徹底した事前調査がカギ
ピッチで勝つには、とにかく研究
― ピッチイベントの場合は、どのような事前準備をされてるのでしょうか?
ピッチの場合は、事前にピッチイベントの性質を研究しておくことが重要です。
例えば「B Dash Camp Pitch Arena」の場合、プレゼンは5分なんですが、その後の質疑応答が10分くらいあるんですね。 審査員がステージの上にいて、オーディエンスの前で質問攻めにされるような状況も多くて、プレゼン自体よりも質疑応答にどう上手く答えられるかも大事だったりします。私は想定問答集(Q&A)を50問以上、用意しました。
そのためピッチ直前にやっていたことはプレゼン練習ではなく、Googleスプレッドシートの想定問答集を充実させることです。質問を書くのも回答を書くのも自分です。 実は、結果として本番では、想定問答集にあった質問は、審査員からひとつも出ませんでした。試験でヤマが外れたようなものですね。 ですが、想定質疑を準備をすることで「どんな質問が来ても自信を持って答えられる脳とスタンス」が出来上がるのです。 テストがヤマが外れたとしても事前勉強をしていると結果が出るのと同じです。
あとは審査員のことも事前に調べておきます。過去のインタビュー記事も読んだりして、どんな人で、何が響きそうなのか、などを考えます。
例えば、「このイベントは著名経営者の審査員が多いから、数字とマーケプランの鋭い質問が出てきそう」みたいなことも事前に想定して準備しておきますね。
逆にオーディエンス賞のように投票で勝敗が決まる場合は、どんな人がオーディエンスにいるのかも意識して準備します。
例えば参加者に大企業の人が多いのであれば、いかにして「WAmazingと組めば何かできそうだな」と思ってもらうか、が鍵になります。
他には過去の優勝企業や、同じグループの出場企業の研究もします。
あとは細かいルールに関して事務局に質問したり、審査員に知り合いがいれば内情を聞いたり、過去優勝者にノウハウを聞いたりもしますね。「B Dash Camp Pitch Arena」において「質疑応答に力を入れたほうがいいよ。」というのは、同ピッチで以前、優勝をしていたSmartHRの宮田社長にアドバイスを求めた時に教えていただいたことなんです。

― プレゼンの準備には、どのような人が関わっていますか?
社内では私しか関わりません。
確かにプレゼンは大事ですが、メンバーの手を止めてやることでもないと思っていて。事業の成長を止めたくないので、みんなには他の仕事に集中してもらうようにしてますね。
― 練習も一人でされてるんですか?
リハーサルに付き合ってもらったことは一度ありますが、基本的に練習は本番の前日に、家とかに一人こもって練習しています。
プレゼン全体を通しですると時間がかかって大変なので、資料ができたらそれをパーツに分けて、時間を計りながら練習しています。陸上選手の「ラップタイム」や「区間タイム」みたいなものです。 そうすると、つっかかる場所や、流れが悪いパートなどが特定されるので効率的に修正をすることができます。
長いプレゼンは小説、短いピッチは俳句
― 練習の際に意識されていることはありますか?
まず、そもそも10分以上の長いプレゼンの場合は練習しません。
話せる時間が長ければ話している間に調整が可能なので、どうにでもできるからです。 しかし、5分程度の時間が短いピッチの方は、一つ詰まると全てがガタガタと崩れてしまうので、しっかり練習します。
― 短いプレゼンの方が練習に時間を割かれるんですね。
そうですね。長いプレゼンは小説、ピッチは俳句のようなものだと思います。
俳句は一言一句が非常に大切なので、練習で実際に話してみながら、推敲してスクリプトも調整するようにしてますね。
ピッチ当日にできることは、直前のアップだけ
― ピッチイベントのプレゼン本番で気を付けていることはありますか?
当日の直前に練習することです。
ピッチはアスリートっぽいところがあって、本番でパフォーマンスを出すためにはアップしておく必要があるんですよね。
「B Dash Camp Pitch Arena」の時は、アーリーチェックインをして部屋で練習しようとしたら部屋の掃除が終わってなくて。
どこか人がいなくて声が出せるところをホテルのスタッフさんにお願いしたら、チャペルに案内されたこともあります。声がすごい響きましたね(笑)

― ピッチ本番が始まってから意識することはありますか?
本番が始まったら、準備として、できることはほぼ無いですね。
あとはコンディションを整えるだけなので、軽くストレッチしてリラックスしたり、自分より前のプレゼンはなるべく聞かないようにして自分のプレゼンに集中したり、イヤホンで音楽を聴いたりします。
加藤社長から起業家へのメッセージ
― 最後に、これからピッチイベントや資金調達を行う起業家に向けて、メッセージをお願いします。
ピッチイベントに出る時は「目的が一番大事」ということを意識してほしいです。
何のためにそのピッチに出るのかを明確にしないと、ともすれば手段が目的化してしまい「ピッチ屋さん」になってしまいます。 目的のないピッチに出ることは時間の浪費であり、本来ならば事業に使うべき時間とパワーを無駄にしていることになります。
なので自分自身に対して、
- このピッチは何のためにでるのか
- それは勝たないと得られないのか、勝たなくてもいいのか
- 勝つ必要があるなら、ルールはどうなっていて、どうすれば勝てるのか
を問いかけて、その上で逆算して戦略的に準備をしていくことが重要だと思います。
そして勝たないと目的が達成できないとわかったら、絶対勝つこと。
そのために徹底的に戦略を持って、準備して臨むことが大事です。
ベンチャー企業は、お金も人も、下手すればプロダクトも無いんです。
あるのはビジョンと構想だけ。なので、それが無ければ本当に何者でもないんです。
青写真をしっかり伝えることだけが、ベンチャーが誇れること。
その青写真をいかに伝えるか、共感してくれる人をいかに増やすか、が重要なことだと思います。
― 加藤社長、本日はありがとうございました!
さいごに

資金調達プレゼンも、ピッチイベントでのプレゼンも、戦略的で徹底的な準備をされていて勉強になることが多い内容でした。
WAmazingの加藤社長にはピッチ資料を作り上げたプロセスについてもお話をお伺いしました。こちらの記事もぜひ合わせてお読みください。

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~ これまでの支援イベント(一部抜粋) ~
■ IVS Launch Pad
■ INDUSTRY CO-CREATION
■ B Dash Camp
■ Slush Aisa
■ Rising EXPO
■ AWS Global Summit
■ sprout
■ TBS Morning Pitch
■ World Economic Forum
■ ECHELON
■ FiBC
■ G20 Tourism Innovation Pitch
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